はじめに
対象読者
- Wavesfactory Equalizerの購入を検討している人
この記事からわかること
- WavesfactoryのEqualizerは他のEQと何が違うのか?
- 筆者が実際に使ってみて感じた問題点、「提案不足」と感じる理由
- 近いコンセプトの他製品との比較
- 無料デモ版の利用方法
奈沼 蓮
ミキシング・マスタリングエンジニア、作編曲家、SR
Wavesfactoryは推しプラグインメーカーのひとつ。
他製品では代えの効かない、痒いところに手が届くエフェクトを出してくれるところが好き。
この記事はプロモーションを含みます。
サイトの信頼性のため、筆者の体験に基づく素直なレビューを行なっています。
製品に関し批判的な内容を含みますが、広告主さまから了解を得ています。
WavesfactoryのEqualizerは他のEQと何が違うのか?
コンセプトは「すべての周波数を自動で同じボリュームにするEQ」
WavesfactoryのEqualizerは他のEQ(Equalizer)と何が違うのか?
と聞かれた答えとしては「すべての周波数を自動で同じボリュームにできる点で違う」ということになります。
しかしこれだけ聞いても、それにどんな価値があるのかわかりませんので補足します。
話が少し脱線しますが、現代ではEQは積極的に音色を変化させるツールです。
しかし元々は「マイクによる音色の変化を補正し、実際の音と等しくする」というものでした。
そして良い楽器で良い演奏をした時、周波数の分布は全体的に山が揃い、バランスが良くなると言われています。
しかし実際にEQで周波数のバランスを揃えても、実際の音の様にすることは難しく、とても手間がかかります。
WavesfactoryのEqualizerはそのような「元来のEQが目指すべき姿」を手軽に実現できるようなプラグインを目指し開発された製品だと考えられます。
実現するのはインテリジェント32バンドパラメトリックダイナミックオートEQ
元のオーディオ信号の周波数を変化させるという意味では、WavesfactoryのEqualizerもその他のEQも変わりません。
大きく異なるのは「周波数バランスを自動で認識し」、「固定32バンドのピーキングカーブ」で「自動で音量調整を行う」というという3点です。
言い換えるなら「インテリジェント32バンドパラメトリックダイナミックオートEQ」ということになります。
実際上に挙げた公式紹介動画を観ると、オーディオに合わせてEQのピークが自動で動いているのがわかります。
確かにこれを人力でやろうとすれば、とても面倒で時間がかかる処理です。
加えて意外にも、複雑で多くの処理をしていそうでCPU負荷はかなり軽いです。
実際に使ってみた感想
ちょうど筆者がミキシングの案件を受けていたタイミングだったので、実際に使ってみました。
その感想を書いていきます。
先に言っておくと、良いところが見つからなかったので辛口レビューです。
欠点1 : レコーディング時のフロアノイズまでブーストする
今回受けたミキシングの案件では素材が宅録(ホームレコーディング)によるものでした。
そのためレコーディングスタジオのような整った環境でレコーディングエンジニアが録音したものと異なり、フロアノイズが多めに入っていました。
ここでEqualizerをかけてみると、悪いことにフロアノイズまでブーストされました。
わかりやすくいうと結果的にノイズが強調され、マイナスの変化です。
「インテリジェント」とはいっても、Equalizerには楽音とノイズを区別できるほどの頭の良さは備わっていないです。
ちなみに「iZotope RXなどでノイズを除去(軽減)してからEqualizerを使ったらうまくいくのではないか?」と考え、それも試しました。
結果としてはこちらもイマイチです。ノイズ処理によって下がっている分、より引き上げようとしてしまうようで、せっかく消したノイズが復活した様になります。
欠点2 : プリセットが不足していて使い道を提案できてない
Equalizerは原理的にはEQでありながら、新しいEQの形を提案しています。
そのため既存のEQとは使い勝手が異なり、うまく使うための情報が不足しています。
そういった場合に頼りにするのがメーカー側が用意したプリセットです。
プリセットには「こういう場合はこの設定にするとうまくいきやすいよ」という提案が含まれています。
しかしEqualizerにはプリセットの数が20しかありません。
また想定されているケースは機能の紹介のためのものや、抽象的なものがほとんどです。
プリセットの不親切さから、Equalizerの真価を引き出し、役に立てることは難しくなってしまっています。
多くのプラグインの場合、改善したい素材にプリセットを片っ端から当てはめていくと、良い感じにハマるものが見つかります。
しかし今回Equalizerではそうしたプリセットを見つけることができませんでした。
「自動でサウンドを改善してくれるEQ」分野の競合製品比較
WavesfactoryのEqualizerに近い機能の製品で有名なものがあります。
検討材料としてそれらの比較をしてみます。
比較1 : iZotope「Ozone」&「Neutron」
どちらもAIを利用したインテリジェント調整要素を持っている製品です。
Ozoneではマスタリングを、Neutronではミキシングや各トラックのサウンドメイクを補助してくれます。
Equalizerも「各トラック、マスタートラックに使えて自動で調整する」と銘打っており、競合のひとつと考えます。
比較内容は後で表にまとめますが、結論からいうと、「値段の安さ」と「処理の軽さ」はEqualizerが優っています。
逆にいうとその2つ以外は大差で負けています。
比較2 : Soundtheory「GULLFOSS」
こちらもインテリジェントEQであることに加え、リアルタイム解析まで共通しています。
ピンクノイズ(周波数エネルギー分布が一定になるノイズ)に着想を得ており、Equalizerのコンセプトとも通ずるものがあります。
またGULLFOSSはマスター処理に特化した特徴を持ちます。
こちらも比較内容は表にまとめますが、「値段の安さ」、「処理の軽さ」、「個別トラックへの対応」ではEqualizerが優ります。
上記以外は負けています。特にマスター処理関係では到底及びません。
Equalizer, Ozone&Neutron, GULLFOSS 3者比較表
重要だと考える項目を表にしてまとめました。
Equalizer | Ozone&Neutron | GULLFOSS | |
---|---|---|---|
価格(定価) | $99 | $499+$399 | $159くらい |
CPU負荷 | 軽い | 重い | やや重い |
個別トラック対応 (サウンドメイク性能) | 可 | 超優秀(Neutron) | 不可 |
マスタートラック対応 (マスタリング性能) | 可 | 超 | 優秀(Ozone)優秀(サウンド) |
頭の良さ (自動処理の適切さ) | 劣 | 優秀 | 優秀(筆者未検証) |
プリセットの数 | 20 | 計120前後 | 未調査 |
公式解説動画 | 1つのみ(英語) | たくさん(日本語対応) | 40前後(ほぼ英語) |
上記のようにEqualizerの総合評価は「悪い」です。
自動でサウンドを改善してくれるプラグインを探しているなら、値段が高くてもセール時などを狙ってOzoneとNeutronを入手することをおすすめします。
無料お試しはWavesfactory公式サイトで
もし実際に使ってみたいという場合は、公式サイトから無料お試し版が使えます。
上記の「Wavesfactory公式」からどうぞ。
どうすればWavesfactory Equalizerは「良プラグイン」になるのか?
筆者なりに改善案を考えてみました。
今後のアップデートなどで実現されてくると良いなと考えています。
改善案1 : プリセットや動画解説による提案・サポートの充実
「実際に使った感想」で先述した通り、Equalizerは斬新性に対して提案力に欠けています。
端的に言うなら「エンドユーザーが追いついてません」。
プリセットの充実やデモパフォーマンス動画を増やし、効果的な使い方を実際に提案していくことが必要です。
記事の最初に載せた動画では5つのトラックにかけて変化を見せているだけで、ミキシング過程上の位置付けが提案されていません。
より多くの楽器、音楽ジャンル、ミキシング上の使い所に具体的に言及していくことで、Equalizerの真価に多くの人が気付ける様になると考えます。
改善案2 : インテリジェント機能の性能強化
競合製品であるNeutronでは処理対象の楽器の大まかな分類を指定することで、処理の適切さを高めています。
Equalizerでも処理内容を一般化しすぎることなく、求められる処理のヒントをユーザー側に指定されることで、より効果的な提案ができるようになると思います。
加えてノイズフロア成分を分けて調整できるようにすることを期待します。
具体的にはスレッショルドパラメーターノブを追加するなどし、処理対象の信号に下限を決めるなどです。
まとめ : 今後の進化、サポート充実に期待
今回の記事ではWavesfactory Equalizerをレビューしました。
要点を振り返ってまとめます。
- 名前は「Equalizer」だが、従来のEQとは違うコンセプト
- 「すべての周波数を自動で同じボリュームにする(=録音前の音に近づける)」ことでサウンド向上を図っている
- 自動処理が基本だが、フロアノイズ成分を区別できないなど処理に問題点がある
- 斬新なコンセプトの割にプリセットや解説動画が少なく、上手い使い方が提案できていない
- 自動でサウンドの改善をしてくれるEQなら、OzoneやNeutronやGULLFOSSがある
今回の記事は以上です。
お役に立てれば幸いです。
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