【現役PAエンジニアが解説】ライブセット図(ステージセット)書き方解説・弾き語り&シンガーソングライター編

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はじめに

対象読者

  • 弾き語り/SSW系アーティストで、セット図を書いたことがない人
  • 弾き語り/SSW系アーティストで、セット図を書いたことはあるが、これで良いのか自信がない人
  • 弾き語り/SSW系アーティストで、セット図を書いているがリハ前に会場PAエンジニアから確認事項が多い人
知りたいのはバンドのセット図の書き方だ!という方はこちら

この記事からわかること

  • 書くのが簡単で必要な情報が盛り込まれたセット図の書き方
  • 弾き語り/SSW系アーティストセット図の具体例(ギター弾き語り、キーボード弾き語り、PCなどからオケ出し)
  • その他セット図を書く際やPAと打ち合わせする際に知っておきたい基礎事項
筆者紹介
奈沼蓮アイコン画像

奈沼 蓮

ライブハウスPAエンジニア、作編曲家、サウンドエンジニア(サウンドデザイン、ミキシング、マスタリング)

累計600 ~ 700組ほどの音楽アーティストライブのPAエンジニアリング、オペレートを担当。

PA業務の得意分野は「ボーカルマイクのハウリングマージンの取り方」と「聴いてると思わず体が揺れるようなリズムの生きたリバーブを組むこと」。

ライブハウスやPAエンジニアによって考え方や手法が異なる場合があります。
それらによって記事内容と共通しない部分も出てくる可能性があるので参考程度にしてください。
会場の音響でよくわからないことがあれば、その会場のPAさんに確認するのが良いです。

セット図には「準備してほしいステージの状態」を伝える役割がある

Photo by Pixabay

セット図の提出をなぜ求められるのか?というと、セット図がないとPA側は「アーティストが使いたいステージの状況」が把握できないからです。

セット図を見てPA側は「なるほど、このアーティストさんはステージにこういう準備をしておけば大丈夫だな」と把握できます。

ここでいう「準備」とは利用する機材の待機とか、必要な音をステージからミキサーに送るためのオーディオケーブルの接続です。
例えば「エレアコ弾き語り」の場合はD.I.の準備が必要になりますし、「キーボード弾き語り」ならD.I.はステレオで準備してキーボードやキーボードスタンドをステージ袖に待機させておく必要があります。

セット図の提出がなかったり、セット図に書かれていない機材の利用を当日求められると、PA側は追加で準備をする必要が出ます。
場合によってはリハーサルの時間を5分程度も消耗します。
リハーサルで曲を演奏する時間が減ってしまうと、演奏において本番前にチェックできることが減ってしまいます。
結果本番のパフォーマンスが下がってしまう可能性があります。

十分なリハーサルでの演奏時間を確保し、万全に本番に備えていいステージにするために、セット図の適切な書き方を身につけていきましょう!

ここまでのポイント!

適切なセット図を提出できればスムーズにリハーサルが進められる!→演出で多くのことを確認できる!
→ライブ本番のクオリティが上がる!

セット図具体例&ポイント解説

ここからが本題です。

セット図は「ステージを上から見た様子を簡略化した図」を基本に書かれています。
あとはアーティスト名や日付、機材の情報など補足的なものを盛り込んだものです。

百聞は一見に如かず。ということでここから具体例を出しつつ、実際どんなものを書けばいいのか解説していきます。

ギター(エレアコ/アコギ)弾き語り

基本形(エレアコ以外持ち込み機材なしの最もシンプルなパターン)

ギター弾き語り例1

シンプルで汎用性が高い、ギター弾き語りのアーティストのセット図例です。

ポイント解説

ギター弾き語りは「立って演る人(立奏スタイル)」と「イスに座って演る人(座奏スタイル)」がいるので、自分がどちらなのか書いておくと良いです。イスの用意だけでなく、ボーカルマイクのセッティングも変わります。

ギターがエレアコ(EAGt./Electric Accoustic Guitar)の場合はD.I.への接続が必須です(D.I.自体はライブハウス側に用意があり、機材費に含まれています)。通常のアコギとの区別のためにもD.I.はセット図にも記入して載せておくと安心です。

応用形(追加変更要素 : アコギマイク録り、座奏、譜面台レンタル)

ギター弾き語り例2

エレアコではないアコギを使う場合で、イスや譜面台の用意をして欲しい時のスタイルです。

ポイント解説

エレアコでないアコギ(ピックアップなどの電装系が無いもの)はD.I.不要です。
代わりにギターの音をマイクでマイクで拾うことになります。

大抵のライブハウスはレンタル用の譜面台があり、無料で借りられることが多いです。
譜面台を使いたい場合はセット図に書いておきましょう。

キーボード弾き語り

基本形(ボーカルマイク&レンタルキーボードの最もシンプルなパターン)

キーボード弾き語り例1

最もシンプルなキーボード弾き語りスタイルのセット図です。

ポイント解説

多くのライブハウスではキーボードのレンタルサービスがあります。
大体500~1500円くらいのレンタル代で借りられるので荷物を少なくしたい方は利用をお勧めします。
残念ながらキーボードの機種が選べることはほぼないので、事前にそのライブハウスの機材リストなどで使えるレンタルキーボードがどんなものか確認しておくと良いです。鍵盤の手応えとかにこだわりがある場合は特に。
当日レンタルキーボードを使う予定であれば、図例のようにセット図に載せておくと良いです。(借りる旨を当日に伝えてもさほど支障はありません。)

キーボードをレンタルする場合はキーボードの仕様について会場のPAが把握しているので書くことは少ないです。
モニタースピーカーはステレオ配置にしてありますが、先述のギター弾き語り同様のモノラル配置でも基本的に問題ありません。

応用形(ボーカルマイク持ち込み、キーボード持ち込み、やや斜め向き、二等辺三角形ステージ想定)

キーボード弾き語り例2

キーボード弾き語りスタイルでこだわりポイントをいくつか盛り込んだスタイルです。
持ってくるのが大変なキーボードを持ち込む姿勢に音への信念を感じます。

ポイント解説

新型ウイルス流行を受けてか、ボーカルマイクを持ち込むアーティストの方が増えてきたので「マイク持ち込みする場合」の書き方にしました。
ここで重要なのは「製品名を書いておく」ということです。
マイクにはダイナミック型/コンデンサ型、単一指向性/超単一指向性など様々な仕様があり、適した取り扱いが少しずつ異なります。(ちなみに図例にあるaudio technica AE6100はダイナミック型超単一指向性です。)

技術的に細かい部分は出演するアーティスト自身が知らなくても問題ないですが、会場のPAエンジニアには必要な情報なので書いておくとセッティングがスムーズです。

またキーボードを持ち込む場合も「製品名を書いておく」ほうが良いです。
キーボードは製品によってオーディオアウト(LINE OUT)の端子が異なるので、接続するケーブルも異なります。
図例に載せたNord Piano 4はLRステレオで1/4インチフォン(アンバランス)端子の仕様です。(もし不具合があった場合はHeadphone OUTも使えます)

こちらもマイク同様、技術的なことはアーティスト自身が知らなくても問題ないです。先方PAエンジニアが仕様を把握するために「製品名」は盛り込んでおきましょう。

図例のように「ステージから真正面を向いているより少し角度を付けたい(またはピアノコンサートのように真横を向きたい)」という場合は、その意図が伝わるよう書くためのポイントがあります。
・演奏者はステージ上手側を向くのか、下手側を向くのかがわかる(図例では演奏者はやや下手側を向くスタイル)
・ステージ上でのおおよその位置関係がわかる
そのため「ステージ自体」をセット図に含めました。これで位置関係が明確になります。
図例では二等辺三角形のステージを想定した図ですが、会場によってステージ形状は長方形だったりします。
会場ホームページの写真などでおよその形状を把握しておくと良いです。

SSW系(楽器は弾かずにカラオケ音源を流して歌を歌うスタイル)の場合

基本形1 オケ音源はCDでPAに流してもらう場合

SSW例1

以前はアイドル系のアーティストで多かった形式ですが、DTMが広まったこともありアイドル系以外でも多くなってきたスタイルです。

ポイント解説

PA側の用意が極めて少ないセッティングのため、ほぼ書くことはないです。
唯一ポイントとしては、図例のように「モニタースピーカーはステレオ配置」が推奨です。
モノラル配置(先述のギター弾き方り図例のような配置)ではアーティストの足元がモニタースピーカーによって見えなくなってしまう場合があります。
足元まで衣装にこだわりがある場合や、振り付けやダンスがある場合は特に、モニタースピーカーはステレオ配置でセット図を出しましょう。

やや音響がわかる人向けの補足です。
このスタイルのアーティストはほとんどが歌いながらステージ上を動き回ります。そのため「モニタースピーカーでステレオイメージを確認する」ことはできません。
モニタースピーカーのステレオ配置はステージ中央に「視界の障害物がない」ことが利点なので、モニタースピーカーからの音声出力は「ステレオ」でも「デュアルモノ」でも構いません。確認しやすい方を選びましょう。

このスタイルで「座って歌う」人はほぼいないので立ち/座りの区別は書きませんでしたが、もし座って歌う場合はイスの用意が欲しい旨を盛り込んでおくと良いです。

基本形2 アーティスト自身がPC(など)を操作し、オケ音源を出す場合

SSW例2

自分のタイミングでオケ音源を流したい!というアーティストによくあるスタイルです。
オーディオインターフェースを持ち込むあたりに音へのこだわりを感じます。

ポイント解説

アーティスト自身がステージ上でPCなどを操作する場合はそのための用意が必要です。
iPhoneなどのスマホをオケ音源として使う場合もこの形式に近くなります。

音質にこだわりがあり、オーディオインターフェース(オーディオIF)を持ち込む場合は図例のように「製品名」を盛り込みましょう。製品によって接続に使えるケーブル種類が異なるので、PA側の事前準備が必要です。
図例のオーディオインターフェース「MOTU M4」では1/4インチTRSフォン端子、RCA端子、1/4インチステレオフォン端子(ヘッドホン用)が接続に使えます。

多くのライブハウスでは、PCやオーディオインターフェースなどの「機材を置く台」も用意してもらうことができます。
意外に思われるかもしれませんが、「マシンライブ」と言われるエレクトロミュージックの分野でたくさんのシンセサイザーを使ったパフォーマンスをする文化があるので、そういったアーティストの人達のために「機材を載せる用の板」がライブハウス側には用意があります。
図例のようにキーボードスタンドと板を組み合わせて簡易的な機材用テーブルを用意してもらうと良いです。
会場によっては小さめのテーブルを借りられることもあります。

余談ですが、PCを使う場合DAWのプロジェクトファイルから再生するのはリスクが高いです。唐突な処理落ちのほか、「Cubaseのe-licenserを家に忘れた!」というアーティストの方も過去にいらっしゃいました。
ライブらしい演出をするにはプロジェクトファイルでの柔軟な操作が必要なこともありますが、一応WAVファイルなどで「別に再生できる手段を確保しておく」と良いです。

セット図を書くのにおすすめのツール

Photo by Pixabay

セット図はパソコンソフトで書く人も、紙に手書きで作る人もいます。

それぞれ利点がありますが、筆者はパソコンソフトで書くことをおすすめします。

  • メールで提出する際にパソコンソフトならスキャナーが要らない
  • 字が汚くても心配いらない、先方PAが読み間違いをするリスクが減る
  • 機材の訂正や変更があったときに編集が簡単
  • 1回作ってしまえば、他日程・他会場にセット図を提出する際も大部分が使い回せる

ちなみに筆者が今まで上げた図例はMacOSの付属標準ソフト「Keynote」で作っています。
WindowsでいうところのPowerPointです。
Macユーザーの方は既に入っているはずなので、Launchpadなどで探してみてください。

WindowsのPowerPointは何年か前に有料サブスクになってしまったので、代わりに「ペイント」を使うのが良いと思います。セット図を書くくらいなら充分な機能です。

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  • この記事を読んだけど、自分の演奏形態に近いものが見つからなかった人
  • 失敗したくないのでその道のプロに描いて欲しい人

まとめ

今回の記事では「弾き語り/シンガーソングライターアーティストのセット図の書き方」について図例を出しながら解説しました。

記事のポイントとしては

  • 適切なセット図が書けるとリハーサルがスムーズにできる!確認できることが増えて本番のクオリティが上がる!
  • セット図は「ステージを上から見た様子を簡略化したもの」が基本
  • マイクやキーボードなど「ケーブルの接続が必要なもの」を持ち込む場合は「製品名」を書いておく
  • セット図を書くツールにはMacなら「Keynote」、Windowsなら「ペイント(無料)」か「PowerPoint(有料)」がおすすめ

こんな感じでした!

今回の記事は以上です。
お役に立てれば幸いです。

バンドのセット図の書き方はこちら!

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