【ユニファイドと通常のメモリの違いをわかりやすく】M1 Macのメモリはなぜ「たったの16GB」で事足りるのか。理由とDTM用途の実力を確認した

目次

はじめに

対象読者・想定読者

  • Apple Silicon M1搭載のMacの購入を検討している
  • メモリが16GBしか積んでないことに不安を感じている、疑問を抱いている
  • ユニファイドメモリについて情報を集めている
  • ユニファイドメモリと通常のメモリの違いをわかりやすく知りたい。

2020年にApple Silicon搭載の新型Macが発表されました。
しかしどの製品もメモリが最大で16GBしか積めないとのことで私は見送りを検討していました。
しかし購入したyoutuberの皆さんの感想を聴くと、「Macbook Air メモリ8GBでも動画編集できる」という声が多い。
というか物足りないという人は見かけない。検索しても出てこない。

メモリを大量に必要とするはずの動画編集でメモリが8GBで足りるとはどういうことなのか?
名称が「ユニファイド」メモリになったことにやはり従来のメモリとの違いがあるのか?
気になったので調べてみた結果、それなりにわかってきました。
基本情報技術者の勉強がここに来て役に立ちました。

解説していきます。

この記事からわかること

  • 通常のメモリとユニファイドメモリの違い
  • M1 Macを実際にDTMで使っている筆者の所感
この記事を書いた人
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奈沼 蓮

DTMer(作編曲、サウンドデザイン、ミキシング、マスタリング)
ライブハウスPAエンジニア

新型ウイルスでライブハウスが長期休業になっている間、仕事の将来性に不安を感じたのでキャリアチェンジのために基本情報技術者の資格を取得した。しかし転職してないので今のところあまり役に立っていない。

そもそも「メモリ」とはどんな役割のパーツなのか?

Photo by Possessed Photography on Unsplash

まずは「メモリ」がPCにおいてどんな役割のパーツなのかをおさらいします。

メモリは「CPUの処理に必要なデータを記憶しておく」パーツです。
一方でHDDやSSDもデータを記憶しておくためのパーツです。
それらと大きく異なる点は「メモリに記録するデータは高速ですぐに使う必要のあるもの」という点です。

わかりやすくするために例えを用います。
私はこうしてブログを書いていますが、書いている時は机の上に記事を書くための参考資料がたくさんあります。
集めた情報をすぐに確認できるように、机の上にKindleや紙の本、セカンドディスプレイにSafariで開いたIT系の記事が立ち上がっています。
この状況では「ブログ記事を書く」という処理をするために「すぐ使う情報を集めておくところ」として机の上がメモリに相当します。
机の上は決して広くありませんが、必要なものだけ出しておくならいちいち本棚に本を取りに行ったりしなくて済むので時間の節約になります。

実際のメモリも容量はHDDやSSDに比べるとかなり小さいですが、HDDやSSDよりもデータを高速でやり取りできます。
「それじゃあメモリを2TBとか積んじゃえば高速になるし、SSDもHDDも要らないんじゃない?」
と疑問に思うかもしれません。
しかしそうしないのにはいくつか理由があり、最も大きいのは「記憶領域あたりのコストが高い」という点です。
実際AppleのMac Proでメモリを1.5TB積めるオプションが存在しますが、そのオプション部分だけで225万円(税別)です。めっちゃ高い。
HDDならもっと領域の広い2TBでも8000円あれば買えますし、SSDでも2TBならせいぜい5万円です。

本当に高速で処理をするために必要なデータを記録しておく場所が「メモリ」というパーツです。

ここまでのポイント!

パソコンでは「高速に呼び出す必要があるデータ」は「メモリ」に、「呼び出しに少し時間がかかってもいいデータ」は「HDDやSSD」に保存するようになっている。

ユニファイドメモリはメモリが小さくて済む「共有メモリ」の側面を持つ

M1で搭載された「ユニファイドメモリ」は画期的な要素をいくつも持っています。
その中でも「なぜメモリが小さくて済むのか?」という点に関しては「共有メモリ」の側面が大きく貢献していそうです。

「共有メモリを持たない」コンピューターの処理解説

ここから話がややこしくなってきますが、例えなどを用いてなるべくわかりやすく書いていきます。

早速めっちゃ重要な点ですが、
まず「共有メモリを持たない」通常のコンピューターでは、複数のCPUで同じメモリ領域に同時にアクセスすることができません。
このままだとせっかくCPUが2個以上あってもあまり意味がなく、作業が速まりません。
専門的にはこの状態を「フォン・ノイマン・ボトルネック」と言います。
そのため、並行して作業ができるようにメモリ領域をメモリ上にコピーします。
こうするとメモリ容量の許す限りCPUの数だけ並列処理ができて作業を高速化できます。

カレー作りでわかるここまでの話

Photo by Jason Briscoe on Unsplash

ここまでを「カレーを複数人で作る」ことに例えてわかりやすくします。
ここでは「カレーを作る」ことが処理内容で、「料理人」がCPUに相当します。
メモリ容量は「厨房の広さ」だと思ってください。作業を行うメモリ領域は「まな板」です。

カレーを作る上では複数人で同時にできる作業が存在します。
例えば「にんじんを切る」、「じゃがいもの皮を剥いて切る」、「たまねぎを切る」などです。
料理人が何人いてもまな板が1枚しかないと、1人以外は暇になります。
1つのまな板を複数人で使うのは危ないですからできません。(フォン・ノイマン・ボトルネック)
時間がもったいないので、まな板の数を増やします。
2枚、3枚と増やしていけばにんじんも、じゃがいもも、たまねぎも同時に下ごしらえでき、カレー完成までの時間が短縮できます。

ここまで理解できると、通常のコンピューターの弱点として「作業を行うメモリ領域が増やせる限りは作業を高速化できる。しかしメモリ領域が増やせなくなったらCPUがいくつあっても作業は速くならない」ということがわかります。
これはカレー側の例えでいうなら「厨房スペースの限界」で制限を受けるということです。
これはつまり料理人が10人いても厨房が狭かったらまな板を置くスペースがなく、全員が調理にとりかかれないという具合です。

共有メモリは「複数のCPUで同時にメモリ領域を処理できる」技術

共有メモリでないコンピューターの処理がわかると、共有メモリの利点がわかります。
それは「複数のCPUで同時に作業するメモリ領域にアクセスできる」ということです。

カレーの話でいうなら「1枚のまな板を複数の料理人で使う」みたいなことです。
これなら厨房が狭くても高速に食材の下ごしらえがすみます。
現実でそんなことやったら超危ないし、むしろ作業効率落ちそうですがカレーはあくまで例えなので
「情報処理ではそんなこともできるのか。」
くらいに思ってください。

並列処理のために作業するメモリ領域をコピーする必要がなくなるため、メモリ容量を節約できます。
これが共有メモリの長所であり、「小さいメモリ容量で済む」理由です。

実際は簡単に実現できるわけではなく、共有メモリの発想や技術自体は10年以上前からあったようです。
しかし「メモリの一貫性の問題」や「搭載できるCPUやメモリ容量の制限のデメリット」を抱えていたり、「Intel製チップが共有メモリに向いた設計ではない」などの課題がありました。
それらをAppleは自社設計のチップ、つまりIntel製でなく「実用的なユニファイドメモリを実現するために設計した」チップによって実装可能にしたというところに革新性があります。

M1チップ上では「Fabric」がデータの多方面アクセスを可能にしている

M1チップの構成を見ると「Fabric」というユニットでCPU,GPU,DRAM(メモリ)などが繋がっています。

Fabricによって全ての処理装置が間接的につながっている
画像引用元 : apple.com

詳しい原理はわかりませんが、Fabric(繊維の意)の表現からして、
「繊維のように複数のデータの通り道を持った回路」
のようなものと考えられます。
Fabricがフォン・ノイマン・ボトルネックを解決し、メモリの共有化を実現しているようです。

このように複数のCPUで共通のメモリ領域にアクセスできる構造を
「ユニファイドメモリアーキテクチャ(UMA)」
と呼びます。

今回のM1チップはCPUだけでなくGPUも共通メモリ領域にアクセスできるので特に
「ヘテロジニアスUMA(hUMA)」
と分類されます。

ここまでのポイント!

ユニファイドメモリは通常のメモリと違い、「複数のCPUが同じメモリ領域を使える(メモリの共有化)」ができる。
そのため通常のメモリよりも狭いメモリ領域でもデータ処理で支障をきたしにくい。

ユニファイド16GBメモリのDTMにおける実力

Photo by Michael Dziedzic on Unsplash

ここまでが長くなりましたがやっと本題2つ目です。

筆者利用環境での所感

私自身2021年3月にM1 mac mini(2020年モデル)を購入し、DTMやこの記事の執筆で使っています。

筆者のM1 mac mini スペック(2022年2月時点更新)
  • モデル : 2020年
  • OS : 11.6.1
  • ユニファイドメモリ : 16GB
  • SSD : 2TB

自分の経験とDTMer系Youtuberの方々の検証動画をいくつか観てみたところある程度わかったことをまとめます。

M1(Apple Silicon)のDTM周辺環境(2022年2月時点更新)
  • 主要なDAWはほぼ全てM1チップ(Apple Silicon)に対応済み。
  • M1チップ用にプログラムを読み直してくれる(エミュレートしてくれる)Rosetta 2を使えば他のDAWも他社製プラグインも一部製品を除き正常動作する。
  • DAWではGPUはほとんど使わないのでhUMAの恩恵は小さい。(動画編集などでは恩恵が大きい)

M1の仮想メモリはホントのメモリに迫真する速さ

やや極端な例ですが、Sounduno(サウンドウーノ)の宇野さんという方が敢えてM1 Mac mini 16GBユニファイドメモリのメモリに負荷をかける検証をサイトで動画付きで公開しています。

検証に用いた「Sampler」というプラグインはLogic付属の純正なので、比較的動きやすい部類のプラグインです。
とはいえ210トラックもSamplerを立ち上げて検証することで、かなり参考になる情報が見えてきています。

メモリ32GBのIntel Mac miniでは立ち上げ後にすんなり再生できたプロジェクトファイルが、ユニファイドメモリ16GB M1 Mac miniでは400GBを超える大量の仮想メモリを消費した後に再生可能になるという現象がポイントです。

用語解説 「仮想メモリ」とは?

実際にあるメモリの記憶領域に関係なく、大量のメモリがあるとCPUに想定させて処理を行うためのもの。
これによって例えば8GBのメモリしか実際には搭載されていなくても、16GBのメモリを消費するような処理がある程度できる。
実際はメモリの隙間の空いた領域を活用していたり、SSDやHDDの記憶領域をメモリの代わりに使う。
(後者の場合、メモリよりSSDやHDDの方がアクセス速度が遅いので完全に同等の処理ができるわけではない)

メモリがユニファイドになったからと言っても、実際のメモリ領域の差は完全に埋まるわけではないようです。
とはいえ、仮想メモリとして利用している内蔵SSDが「M.2」なのでDTM用途であれば音源再生に必要な速度は維持できるという点はすごいと思います。

用語解説「M.2 SSD」とは?

SSDのうち、現状最も速いデータ転送速度を持つPCIe系の規格。数年前まではSATA3という規格が専ら主流で、対応機種も豊富であり、今でも売っている物のほとんどはSATA3だが、M.2も最近少しずつシェアを拡大している。

SSDの速度がメモリに近づいてきているおかげで、これまでできなかったことができるようになってます。
立ち上げ後のレインボーカーソルの待ち時間がややストレスにはなりますが、そこを我慢すれば「ちゃんと再生して音が聴ける」のは大きいです。
今までのSATA3 SSDで仮想メモリなら「確認に支障がでるレイテンシが生じる」とか、最悪「そもそもプロジェクトファイルが開けない」事態でした。

筆者は以前、メモリ8GBのmacbook(intel製CPU 2017年モデル)でBFD3とTrilian含むLogicプロジェクトファイルを作ったら一度閉じたら開けないファイルになったことがあります。

M1 macのDTMで本当に足を引っ張るのはメモリではなくCPUかも

筆者がM1 macminiを使ってDTMをやっていて、先日ついに「重すぎて立ち上がらないプロジェクトファイル」ができてしまいました。

アクティビティモニタなどで原因を調べたところ、メモリ不足が原因ではなく「CPUのパワー不足」が原因でした。
いろいろ検証したところ、CPUにトドメを刺したのはiZotopeのOzone 9のようです。
ちなみにOzone 9はiZotope公式がRosseta経由でのM1対応を発表しており、Logicのプラグイン検証でも何の問題もありませんでした。

プロジェクトファイルでの作業中にOzoneを呼び出すのはCPU負荷をモニターする限り全然問題ないです。
ただしOzoneを挿したプロジェクトファイルを一度閉じて再度開こうとすると、レインボーカーソルが出てLogicが「応答なし」になり開けません。
この状態をモニターしたところ、メモリ負荷は全体の4割ほどでしたが、CPUが性能天井打ちまくってました。

有志の検証によってM1 mac搭載のCPUは「シングル性能は高いがマルチ性能が低い」と分かっています。

おそらくLogicプロジェクトファイル立ち上げではマルチ性能が必要であり、現バージョンのOzone 9の負荷にはCPUが耐えられないのかもしれません。

iZotopianの私としてはOzoneのM1ネイティブ対応アップデートがきて解決するといいなと思っています。
もうすぐ「『M2』が出る」という噂もあるので、CPUに不安がある場合は新製品発売を待つのもありです。

まとめ DTM用途ならヘビーユーザー以外不足無し

今回の記事ではM1チップ搭載のMacが「なぜメモリ16GBで事足りる(ように見える)のか」という点について解説、考察しました。

主な理由としては

  • ユニファイドメモリになったことで「共有メモリ的側面」を持ち、メモリ領域が節約できている
  • SSDがM.2になったことで高速化し、SSD上に仮想メモリ領域を作ってもある程度処理速度を保てるようになった

これら2点です。

DTM用途であればメモリ不足時に生じるM.2 SSDの仮想メモリでも大抵の場合支障なさそうです。
一方で「メインのDTM用PCがメモリ128GB積んでる」とか、「プロジェクトトラック数が3桁行くのは日常」とかいう人が購入するなら今後も他の検証などで情報集めていく必要がありそうです。

2022年現在プラグイン各社M1チップへのネイティブ対応はかなり進んできましたし、Rosseta 2のおかげで主なソフトは普通に動きます。
余程ハイスペックなCPUやメモリに負荷をかけた使い方をするDTMerでないなら、買っても後悔することにはならないと感じます。

今回の記事は以上です!
お役に立てれば幸いです。

付録1 : 実際に筆者がM1 mac上のLogic Proで動作検証済みプラグイン(2022年2月時点)

問題なく利用可能
  • Steven Slate Drums 5
  • MODO DRUMS, MODO BASS
  • Trillian
  • AudioModeling SWAM
  • Addictive Keys, Addictive Drums 2
  • Syntorial
  • Arturia Pigments 3
  • flux pure analyzer essential
  • iZotope Insight 2, Neutron 3, RX9
  • Valhalla Delay, Valhalla Plate
  • BIAS FX2, AMP2
  • Modartt Pianoteq7
機能不完全・利用不能(システム動作検証不可)
  • iZotope RX7 (最新版のRX8は対応しているらしい)
  • Roland Sound Canvas VA
  • melodyne 5 studio, editor(ARAプラグイン)
  • BFD3(スタンドアロンは動くがプラグインは×)
  • iZotope Ozone 9(プロジェクトファイルが開かなくなる)

実際にDTMで作編曲やミックスで使っている印象では、期待以上にパワフルです。
重めのソフトウェア音源(Trilianなど)や複数の空間系(リバーブ8トラック、ディレイ4トラック)、iZotope系のAI処理を走らせても全体処理能力の半分で事足ります。

遅延やフリーズももちろんありません。

現在筆者が実際に体感している難点としては

  • iZotope系は最新のバージョン(RXなら8)しかM1対応していない模様(おそらく他社でも最新版のみM1対応している可能性大)
  • 機械学習・AI系のソフトウェア(spleeterなど)はTensorflow最新版が対応しきっていないため一部利用不可

M1対応しました!と開発元が公表していても、やや古いバージョンを使っているDTMerは注意が必要そうです。
バージョンアップデートが無料ならそこまで問題ではないんですが、iZotopeやMelodyneといったメーカーでは有料なので、そのための費用も出費計算に入れておいた方が良いです。

付録2 : M1 mac miniを買ったらついでに買っておきたいもの

M1 mac miniはDTM用途で使うにはUSBスロット数が全然足りません。
USB Type-Cが2スロット、Type-Aが2スロットのみです。
通常のマウスや文字キーボードに加えて、MIDIキーボード、MIDIパッド、ライセンスドングル、オーディオインターフェース、USBメモリ、バックアップディスクなどDTMで必要なものを繋ぐにはUSBハブが必須です。

筆者は今まで数社のUSBハブを試してみましたが、Satechiのものがデザイン、質感、動作安定性どれをとっても文句なしで気に入っています。

付録3 : 参考文献・参考リンク集

今回記事を書くにあたって様々なページ、書籍を参考にしました。
情報の確認などに活用ください。

メモリ、仮想メモリなどの概念関連
ノイマン型コンピュータ、共有メモリ、ユニファイドメモリなど関連
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