はじめに
対象読者
- iPad版Logic Proが気になっている
- いまiPadでGarageBandを使っていて、乗り換えるか迷っている
- macOS版Logic Proユーザーの所感が欲しい
- 音楽制作にどの程度まで使えるそうか知りたい
この記事からわかること
- iPad版Logic Proに期待できること
- GarageBandとの明確な差や乗り換えるメリット
- 効果的な使い方や筆者の使い方
- iPadでDTMをするなら欲しい機材
奈沼 蓮
作編曲家、サウンドエンジニア(ミックス、マスタリング、PA&SR)
Logic Pro歴6年。
iPad版が出るときいて、通勤移動中の活用を積極的に模索中。
5/24からサブスクでLogicがiPadに登場
対応スペックはA12 Bionicチップ以降。OS 16.4以降。
DAWを動かすだけあり、CPUやOSのスペックはやや限定されます。
iPadのためのLogic Proは、A12 Bionicチップ以降とiPadOS 16.4以降を搭載したすべてのiPadにインストールできます。※引用 https://www.apple.com/jp/logic-pro-for-ipad/
2023年現在公式販売されている製品群では最低でもiPad第9世代のA13 Bionicです。
なのでこれからiPadを買う人は問題ないです。
ややわかりにくいですが、もちろんApple Siliconチップシリーズ(M1とM2)も含まれています。
サブスク形式で価格は月額700円。年額7000円。
macOS版のLogic Proは買い切りですが、iPad版はサブスクリプション形式です。しかも初月無料。
iPadのためのLogic Proは1か月間700円、または年間7,000円のサブスクリプションサービスとして利用できます。App StoreからiPadのためのLogic Proをインストールして、1か月間の無料トライアルを開始できます。
※引用 https://www.apple.com/jp/logic-pro-for-ipad/
安いと見るか高いと見るかは人に依りますが、一応「プロでも使えるソフト」の位置付けの製品であれば安い方だと思います。
DTMに限らず、音楽系の趣味は1年未満で辞めてしまう人が多いです。
そのため月額制は買い切りタイプより、断念してしまうリスク管理としても優秀です。
これは筆者の勘ですが、この価格設定は「中高生を取り込もう」としている気がします。macOS版Logic Proを含め、本格的なDAWは3 ~ 5万円します。これまでは中高生が手が出しにくいものでした。
しかし月額制でしかも1000円以下となれば話は変わります。
そして未来のLogicユーザーを増やすのがAppleの目論見ではないか、と感じます。
特に気になる発売後注目ポイント2選!
ここからが本題です。
iPad版Logic Proの仕様や機能で、筆者が特に注目しているところを解説します。
注目点1. macOS版では約62GBもある「音源ライブラリ」のサイズは?
macOS版の「音源ライブラリ」はiPadにとっては超大容量
macOS版Logic Proは「音源ライブラリ」が62GB程度あります。(筆者のmacでは61.98GBありました。)
これらは純正プラグイン音源、エフェクトなど、音楽制作に必要なソフトのスターターセットのようなものです。
しかし2023年現在のiPadのストレージを考えると、62GBはあまりにもデカすぎます。
iPad Proは128GB ~ 2TBなので余裕ありますが、iPad AirやiPad(無印)は64GBか256GBです。
64GB中62GBを占有されたら、窮屈すぎて他に何もできません。音楽作れません。
加えてmacOS版Logic Proの場合は「Apple Loops」がつきます。
これらはいわゆるオーディオループ素材で、HipHopのようなサンプリング主体の楽曲制作で相性が良く、
また効果音もあるので映像制作でも活躍します。
これが大体3.5GB弱あります。(筆者のmacでは3.36GBありました)
先述の「音源ライブラリ」と合わせると、約65GBになります。
完全にiPad ストレージ64GBモデルの容量を超過しました。
フルで載せることはまず無いが、その分機能が縮小されることを覚悟
とはいえ、さすがにmacOS版Logic Proと同等の音源ライブラリをセットにしてくる可能性は極めて低いでしょう。
せいぜいトータルで10GBくらいになるセットに抑えてくると思います。
逆に言うと「それだけmacOS版Logic Proから減らされる機能がある」ということになります。
この点はあらかじめ覚悟しておいた方が良さそうです。
注目点2.「ラウンドトリップ互換」はどこまで実現されるのか?
「ラウンドトリップ互換」を簡単に紹介すると、
mac版Logic ProとiPad版Logic Proでプロジェクトファイル(楽曲制作の作業データ)を移動・共有できる
というものです。
公式ページには
Logic ProのプロジェクトをMacとiPadの間で簡単に移動して、
スタジオでもツアー先でも作り続けることができます。
とあります。
しかし多分無理というか、かなり厳しい条件下で可能とかそんなレベルになると思います。
というのも多くのLogicユーザーはApple純正のLogic Pro付属のプラグインだけでなく、サードパーティー製のプラグインも使っているからです。
iZotopeとか、Wavesとか、Celemonyとか、IK Multimediaとかのプラグインです。
当たり前ですが、現在サードパーティ製プラグインのほとんどはiPadで動く様には作られていません。
また導入できるマシン制限など、ライセンスの問題もあります。
それらの問題が全部クリアできているなら、ラウンドトリップ互換は夢のように便利な機能です。
ただまずそこまでは期待できません。少なくとも数年はかかります。
総合すると、現実的には「Logic付属のプラグインのみを使ったプロジェクトはラウンドトリップできる」というレベルだと考えられます。
iOS版GarageBandとの明確な違いはミキシング性能とmacOS版連携
気になるのが現状のライトユーザー向けDAWであるGarageBandとの違いです。
公式の紹介ページを読んで明確な違いをまとめてみました。
- 実質的なトラック無制限(GarageBandは最大32トラック)
- エフェクト種類の増加
- ミキサー画面の追加
- Track Stack機能の追加
- サイドチェーン機能の追加
- macOS版Logic Proとのラウンドトリップ互換
この他にもプラグインインスツルメントの種類増加など、全体的な基礎力向上はありそうです。
注目すべきはミキシング能力の大幅向上に力を入れて差別化してきたことです。
ミキシング性能向上は楽曲の聴き映えに大きく貢献
先程挙げた項目の上5個は全てミキシング過程で力を発揮するものです。
GarageBandとはミキシング性能で大きく差を出してきました。
ミキシングは楽曲の「聴き映え」を大きく左右する部分です。
「GarageBandでの完成品」と「Logic Proでの完成品」では、聴いた印象に大きな差が出そうです。
ミキシング後の出来は編曲の質やレコーディングとサウンドメイクの質にも依りますし、ミキシングで良い道具を使っているからといって使いこなせるかの話は別です。
それでもやらなきゃうまくはならないので、質の良いツールをいじってみて仕様や音の変化に慣れておくことには大きな価値があります。
「iPadならでは」の利点はMIDI入力とオートメーション入力
MIDIキーボードが無いデメリットは軽減(消滅はしない)
macOS版では特別なディスプレイを使ったりしない限り、タッチ操作はできません。
しかしiPadならできます。
これはMIDIキーボードが無い人には大きなメリットです。
従来のDTMではMIDIキーボードは必須級とは言わないまでも、準必須級の機材です。
ピアノが弾けるか弾けないかは関係なく、有るのと無いのとでは作業効率や耳コピなどの楽曲分析精度に圧倒的な差が出ます。
とはいえMIDIキーボードは持ち運ぶ製品もあるものの、やっぱり大きいです。
iPhoneでは画面が小さすぎて、当然鍵盤が小さくなり過ぎ、操作性は悪いです。
鍵1本あたりの幅は指の幅1本分もありません。
iPadの画面タッチなら、操作性を確保できるのでMIDIキーボードが無いデメリットは軽減されます。
「ピアノ演奏のMIDIレコーディング」とかでも無い限り、MIDIキーボードの必須シーンは減るでしょう。
ベロシティ情報は結局調整することになりますが、もともとピアノが弾ける人以外はどのみち調整必須です。
キーボードがない場所でも手軽に入力できるメリットが増大したことは間違いありません。
オートメーションの操作性は圧倒的優位
iPad版発売前の現在でも、オートメーションを描くためにタッチディスプレイを買う作曲家やミキシングエンジニアはいます。
特にストリングスの表現調整や、ボーカルのダイナミクスとピッチ修正では大きく貢献します。
iPad用のLogic Proとなれば、従来よりタッチ操作に重点が置かれた操作性になります。
もともと有利だったものがさらに有利になるので、圧倒的です。
Apple Pencilだからできることとかも出てくるかもしれません。
筆者は今のところApple Pencilは買っていませんが、今後DTMでもあると便利だとわかったら購入するかもしれません。
というか、それくらい魅力的な利便性がiPad版Logic Proに追加されることを期待しています。
iPad版Logic Proの効果的な使い方
メインはmac版、外でメモるときはiPadで
既にmacOS版Logic Proを持っている人におすすめの使い方です。
作曲をしているとアイディアが出てこず、作業が行き詰まることは往々にしてあります。
そんな場合、外に出て散歩したりするといいアイディアが出てくるものです。
そんないいアイディアを「忘れないうちにメモしておく」ことにiPad版が使えます。
メモだけならメモ帳でもボイスメモでも使えなくは無いですが、Logicに反映するまでに一仕事増えてしまいます。
作業効率を考えればやはりプロジェクトファイル本体に保存できるメリットは大きいです。
メインはmacで、iPadでオートメーション作業
これも既にmacOS版Logic Proを持っている人向けです。
柔軟な線を描くことが求められるオートメーション作業ではiPadのタッチ操作が圧倒的に有利です。
ミキシングガチ勢なら、この機会に導入する価値はあります。
GarageBandからLogic Proに段階的に慣れたい人に
今macOS版のLogic Proを持っていないけど、GarageBandが窮屈に感じてきた人向けです。
macOS版Logic ProとGarageBandには大きな機能の差があります。
iPad版Logic Proが出ることで、GarageBandとLogic Proの間に段階がひとつ生まれました。
GarageBandだとできることが少なすぎて満足できない、でもmacOS版Logic Proだと設定が複雑すぎて使えそうにない、という人にうってつけです。
筆者の場合 : 通勤時の楽曲分析用に
DTMをするとオリジナル曲を作るだけでなく、他のアーティストの作品を研究していくことの大切さに気づきます。
筆者は電車での通勤時間が長めなので、電車内で楽曲分析できたらいいなと思っていました。
そんな頃iPad版Logic Proが発表されたので、「これは使える!」と思いiPadとiPad版Logic Proを導入しました。
楽曲分析ではDAWの機能は本当に役に立ちます。
- 区間再生機能。しかも小節や拍単位で管理できる。
- 耳コピで音程を確かめるためのシンセ
- 特定の音域だけ聴きたい時のイコライザ
- 気づいたことをメモしておけるMIDIトラックやノートパッド
そして楽曲制作では必要になる「良いサウンドだがファイルサイズが重いソフトウェア音源」や「MIDI入力が快適なキーボード」は必要ありません。
楽曲分析だけならiPad単体でも十分です。
楽曲制作は自宅のmacで。通勤時の楽曲分析はiPadで。というのが筆者の使い方です。
iPadでDTMをするなら欲しいもの
筆者が自分のために実際に選定し購入したものです
ここに載せたものは、筆者である私が「自分が買うとしたらどれを選ぶか?」と考えて選定したものです。
実際に準必須級までの製品でもともと持っていなかったものは、先日Amazonで注文しました。
※筆者はiPad Air 第5世代(10.9インチ)を選んだので、それに合わせた商品選定になっています。
必須級(いかなる場合でも絶対に必要だと考えられるもの)
USB-C – 3.5mmヘッドホンジャックアダプタ
いつからかは分かりませんが、iPadからはヘッドホンジャックが廃止されてしまっています。
そのため変換アダプターが必要です。
これを見て「え!Bluetooth(無線)イヤホンじゃダメなの⁈」と思う人も居そうです。
ハッキリ言って現状のBluetoothの性能ではダメです。最新のver.5.3 LEでもaptX LLでもダメです。
理由は「音が伝わるのが遅すぎるから(レイテンシが大きすぎるから)」です。
DTMでノイズ処理を行うときなどは画面表示と聞こえてくる音の時間差が小さくないと作業に支障が出ます。
一般にはレイテンシが20ms(0.02秒)以下の必要があります。
ところがBluetooth 5.3 LEのレイテンシは60ms前後、aptX LLでも40ms前後です。残念ながら遅すぎる。
そのため2023年現在でDTMをするなら、有線の煩わしさを我慢しつつ有線イヤホンを接続できるアダプタが必須です。
ちょっと高くてもApple純正品を選んだのは、多くのメーカーサポートが「Apple純正品を使って接続していること」を前提にして案内してくるからです。
サードパーティー製だとメーカー側も動作検証してない場合があります。
カナル型有線イヤホン → IE100PRO
IE100PROでなくても良いですが、有線イヤホンはカナル型である程度品質の高いものが良いです。
iPadでの作業は外への持ち出し時(カフェや通勤電車内など)が多いと思うので、周囲の雑音の影響があります。
カナル型イヤホンは耳栓のような役割も担ってくれるので、雑音を軽減する効果があります。
筆者も実際にこのIE100PROをPAの仕事や通勤中のリスニングで使っています。1万円台なのにバランスの良い性能をしており、コスパが高いです。カナル型なのでライブ環境や電車内でも「モニターしたい音を聴きやすい」のが優秀。
準必須級(無くても作業はできるが、あるとかなり快適になるもの)
スタンド機能付きiPadケース → エレコム
iPad保護のために欲しいところです。
筆者の職場のiPadがこれを装備していて、使い心地も悪くなかったのでこれを選びました。
アンチグレアタイプの画面シート → NAMISO
電車内など屋外に持ち出して使う場合は日光や照明の反射が強いので、アンチグレアタイプのシートがおすすめです。
画面の映り込みを防いでくれるので視認性が向上し、作業が快適になります。
デメリットとして画面の解像度が少し落ちますが、DTMには支障無いレベルです。
そもそもDTMでは最新の高解像度までは必要ありません。
キズやApple Pencil使用時の摩擦に対する保護のためにも欲しいところです。
任意級(場合による)
iPad対応オーディオインターフェース → AG06MK2
iPad対応オーディオインターフェースはiPadを制作環境のメインマシンにするなら必須です。
Apple公式サイトではSENNHEISERのUSBマイクとApogee Duetが画像として出ています。
しかしiPadをメインマシンにするDTM初級~中級者にはあまりおすすめできません。
値段が高いし、海外メーカーなので日本語サポートが手薄です。
英語レベルがある程度あり、説明書をしっかり読める大学生とかならいいですが、中高生にはやや厳しい。
そんな背景があるので日本メーカーでiPad対応(iOS対応)、しかも値段が手頃で持ち運びもしやすい「YAMAHA AG06MK2」を選びました。
「Apogee Symphony Desktop」みたいな高級機種に比べればもちろん音質は劣ります。
耳が肥えてきて財布に余裕ができてきたらそういうのを買えばいいのであって、スタートには十分すぎる性能です。
機能モリモリなので、メインのオーディオインターフェースが高級機種になった後も、サブ制作環境のミキサーや配信ライブ時のミキサーとして優秀です。
筆者は職場のWeb会議などでAG06MK2を使っています。
高級感は無いものの音質も良いです。
もともと配信ミキサーの製品なので、ループバックや内蔵のアンプシュミレーターやリバーブなど、配信に気が利いた機能が詰まっています。
もちろんzoomやGoogle MeetなどのWeb会議用にも優秀です。
まとめ
今回の記事ではiPad版Logic Proの紹介と、購入予定で現在もLogicユーザーである筆者の所感を述べました!
ポイントをまとめるとこんな感じです。
- iPad版はサブスク形式。月額700円、年額7000円。古いiPadでは性能不足。
- 「音源ライブラリのサイズ」と「ラウンドトリップ互換の実現範囲」が利便性に影響するので要注目。
- GarageBandと比べ、ミキシング周りの機能が大幅強化。
- 外出時の音楽制作や、macOS版Logic Proに段階的に移行したい人にメリット多数。
- レイテンシ回避の観点からヘッドホン(イヤホン)は有線必須。つまりアダプターも必須。
今回の記事は以上です!
お役に立てれば幸いです。
リリースされて実際につかってみたらレビュー記事も書きます!
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