はじめに
対象読者・想定読者
- ライブでケーブルを多く使う人(ギタリスト、マシンライブアーティスト)
- 過去にライブ当日に回線不良で音が出ないトラブルにあったことがあり、対策したい人
- パッチケーブルなどケーブル類を自作している人
ライブハウスでPAをしていると、出演者の方が持ってきたケーブル(多くの場合シールドやパッチケーブル)が何らかのトラブルの種を抱えているケースをたまに見ます。
今回の記事では無事にリハーサルやライブ本番をするために、「持参するケーブルを事前にチェックする方法」について解説します。
奈沼 蓮
ライブハウスPAエンジニア・オペレーター。
作編曲、ミキシングマスタリングエンジニア。
前職で工場機械設計職だったことがあり、そこで鍛えられたのでハンダ付けはそれなりに得意。
でもハンダの煙は苦手で頭が痛くなってしまう。
ケーブルが抱えているかもしれない問題点 3つ
リハーサルの時点で音響トラブルを起こすケーブルがどういう問題を抱えているかを紹介します。
断線している・断線しかかっている
一番多いのが断線や接触不良です。
市販品・自作品問わずケーブルは「細い銅線の束」を利用して電気信号を伝えています。
ケーブルが古くなったり、ダメージを受けているとケーブル内の銅線が切れてしまい、音の電気信号を伝えなくなります。
「音が出ない・音が出ない時がある」のようなわかりやすい音響トラブルを起こすので発見は容易いです。
配線ミス(ケーブル線 – コネクタの接続部で繋ぐ箇所を間違えている)
ケーブルを自作している場合、ケーブル線 – コネクタの接続箇所が間違っていることがあります。
ギターに使うシールドケーブルやパッチケーブルでは2芯しかないのでケーブルの製作過程でこのようなミスは起きにくいです。
一方、XLRケーブル(キャノンケーブル・マイクケーブル)は「3芯」かつ「コネクタのオス側・メス側で接続ピンの位置が異なる」ためか、配線ミスが起こりやすいようです。
モノラルで使う場合(1本のみで使う場合)は不具合が起こることは無いので気づきにくいです。
しかしステレオで使う場合(2本組み合わせて使う場合)は正常なケーブルと接続ミスのあるケーブルの組み合わせで「音がキャンセルしてしまう」音響トラブルを起こします。
詳しい原理は長くなるので割愛しますが、簡単に説明すると「正常なケーブルで送る音の信号」と「配線ミスしてるケーブルで送る音の信号」がお互い「反転の関係」にあるので打ち消し合う現象が起こります。
出るはずの音が出なくなったり、位相ズレ由来の「しゅわしゅわしたノイズ」が出るので発見しやすいですが、音響にそれなりに詳しい人でないと「何が原因で起こっているトラブルなのかわかりにくい」側面があります。
漏電している
ケーブルの芯線の絶縁がうまくいっておらず、漏電している場合もあります。
これはギタリストでケーブルを自作している人に多い傾向があります。
ケーブルをハンダ付けするときのポイントで
「芯線がまとまっていてピン以外の場所に触れていないこと」
というのがあります。
これが失敗している(芯線がボサボサでピン以外のパーツに触れてしまっている・もしくはケーブルを曲げた時などに触れてしまう可能性がある)状態だと漏電が起こります。
この場合の漏電は電子レンジや冷蔵庫で起こる漏電と異なり電流値が小さいので、感電しても大事には至らない軽微なものです。
しかし「音を伝えるための信号が逃げてしまう」、「アースがうまく取れていないので、ボーカルマイクで唇がバチっとする」という不具合が起きます。
こちらもライブパフォーマンスに支障が出るので解決しなければいけません。
ケーブルは「断線」、「配線ミス」、「漏電」していると音響トラブルを起こす
ケーブルが正常か調べる方法(チェック方法)
前章でケーブルが悪い状態がどういうケースがあるのかを紹介しました。
問題は「自分が使うケーブルが正常かをどうやって確認するのか」です。
ライブの当日リハーサルで気付くと、対処のためにリハーサルの時間を消耗してしまいます。
この章では「ケーブルの状態を事前にチェックする方法」を紹介します。
最適なのは「ケーブルチェッカー/ケーブルテスター」
ここから紹介する方法で最も安くて簡単で手間が少なく、電気回路の勉強がほぼいらない手法が「ケーブルチェッカー(ケーブルテスター)」です。
ケーブル両端のコネクタをサクサクっと接続するだけで「断線」「配線ミス」「漏電」がないかを一度に確認できます。
表示も対応する場所にランプが点く形式なのでわかりやすいです。
難点・デメリットを挙げるとすれば、「ケーブルチェックにしか使えない」という点です。
これから紹介するケーブルチェックの選択肢で紹介する「テスター」は電機工作・電機工事などに使うことを想定したものなので、ケーブルチェック以外にもいろいろ使えます。
例えばコンセントの極性チェック、電流値測定、電圧値測定、抵抗値測定などに使えます。
ケーブルチェッカーは「ケーブルのチェック機能に特化している製品」なので使い勝手と引き換えに汎用性が失われています。
ケーブルチェッカー系の製品はなぜか一般ではあまり馴染みのない「9V電池」が必要なケースが多いですが、上に挙げたCT100はアルカリ単三電池で動きます。
テスター
電機工作や電機工事をやる人なら既にテスターを持っているでしょう。
その場合はテスターがケーブルチェックにも使えます。
上のテスター(ACクランプメータ)は私が前職の機械設計者時代に職場で定評のあった製品です。
屋外作業などのハードな場面で使用しても壊れにくいことや軽量で持ち運びしやすいことが理由である気がします。
テスターでチェックする場合は「ケーブルの各チャンネルを1本ずつ調べなければいけない」というめんどくささがあります。
チェックに必要な時間も増えるので多くのケーブルをチェックする場合は不向きです。
一方でテスターはケーブルの形状を選ばないのでオーディオケーブルでないケーブルにも応用できます。
更に上のようなクランプメーターは「ケーブルを取り外すことなくクランプ内のケーブルの電流を確認できる(断線の有無を確認できる)」という点で便利です。
ケーブルチェッカーは安い、早い、わかりやすいが、汎用性が低い(ケーブルチェック以外には使えない)。
テスターは比較的高価、面倒、知識がないとわかりにくいが、汎用性が高い。
ケーブルに不具合が見つかった場合の修復方法
修復は作成時同様、ハンダごて、ニッパー、ワイヤーストリッパーがあれば簡単にできます。
以下、不具合別に解説します。
断線の場合はケーブル線交換(コネクタ部分は使える)
ケーブルが断線していると分かった場合は基本的にケーブル線の交換です。
ケーブル内線のどこで断線しているかを調べるのは困難であり、またケーブル線自体は(一部超高級品を除き)安いのでケーブル線を丸ごと取り外して新しいものと交換します。
この場合はコネクタは正常に使えるので使い回しできます。
古いハンダは音質劣化につながってしまうのでハンダ吸い取り線などで綺麗に取り除きましょう。
ケーブル線の内線で断線しているわけではなく、ケーブル線とコネクタピンのハンダが取れている場合の断線はハンダ付けし直せば復活します。
配線ミスの場合はハンダ付け直し
配線ミスの場合は正しい配線に直せば良いので、一度間違えてハンダ付けしてしまったケーブル線とコネクタピンを外し、正しい位置で再接続します。
ハンダを外す場合は「ハンダ吸い取り線」があると良いです。古いハンダを熱した時に当てると染み込ませるように吸い取ってくれます。
正しい配線を忘れないためにメモを取っておくか、正しく接続できているケーブルを見本として横に置いておくなど対策すると安心です。
漏電の場合はハンダ付け直し+絶縁チューブを活用
漏電していた場合はケーブル線とコネクタの接続部分を正しくハンダ付けし直す必要があります。
漏電せずに正しく接続できているかのチェックポイントとして、
- ケーブル内線の被覆を剥きすぎていないか(大抵2mm程度で十分。長く剥きすぎると他の芯線などと接触してしまうリスクが増える)
- ケーブル芯線はまとまっているか(ボサボサに広がっていると他の芯線などと接触してしまうリスクが増える)
- 絶縁チューブは正しく装着されているか
最後に「絶縁チューブ」というものが出てきましたが、これがあるかないかで漏電のリスクはかなり変わってきます。
なぜかケーブル自作している人でもあまり使っている人がいないのですが、個人的には必須級のアイテムです。
ちなみに筆者は前職で絶縁チューブの装着ミスによって短絡(ショート)が起こり、損害額数百万円の事故を起こしたことがあります。幸いにも物損のみで人的被害はありませんでした。工場機械みたいな大電流はオーディオケーブルには流れませんが、マジで絶縁チューブ大事です。
絶縁チューブはいろんな色があり、黒がわずかに安かったりしますが、私は白がおすすめです。
白なら絶縁チューブの上に細いマジックなどで文字を書いて識別することができるからです。
まとめ : 大事な場面で使うケーブルは事前にチェックして必要なら修復
今回の記事では「ケーブルが正常かどうかチェックする方法」、「ケーブルに異常が見つかった場合に修復する方法」について解説しました。
要点をまとめると
- ケーブル不良は「断線」、「配線ミス」、「漏電」の3種
- ケーブルチェックにはケーブルチェッカーがおすすめ。一般的なテスターでも可能。
- 修復はハンダごて、ニッパー、ワイヤストリッパーの他にハンダ吸い取り線があると便利
- (個人的に強調したい点)ケーブル作成時から絶縁チューブを使うと漏電リスクが激減する
こんな感じでした。
読者の皆さまがライブ本番でケーブルトラブルに遭わないことを願っております!
今回の記事は以上です。
お役に立てれば幸いです。
商品紹介
今回記事中には登場しませんでしたが、私が使っているハンダごてを載せておきます。
温度調節ダイヤルがついている点がポイントで、これがあるかないかでハンダ付けの難易度が大きく変わります。
ハンダの熱し過ぎは音質劣化にもなってしまうので音響系の工作なら特におすすめです。
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