はじめに
対象読者・想定読者
- ライブハウスに出演することになったが、セット図の書き方(描き方)がよくわからない
- セット図は提出しているが、リハ前にPAから内容確認が入ることが多い
- セット図は提出しているが、当日リハでセットされたステージ状況が想定と異なることがある
この記事からわかること
- 書くのが簡単でありかつ、必要な情報が盛り込まれたセット図の書き方・考え方
- セット図の具体例(シンプルなものとオプションもりもりの2パターン)
奈沼 蓮
作編曲家、オーディオエンジニア(サウンドデザイン、ミキシング、マスタリング、PA)
ライブハウスPAオペレーター・エンジニアとして2年で500組以上のアーティストのライブを担当。
PA業務の得意分野は「ボーカルマイクのハウリングマージンの取り方」と「聴いてると思わず体が揺れるようなリズムの生きたリバーブを組むこと」。
ライブハウスやPAエンジニアによって考え方や手法が異なる場合があります。
それらによって記事内容と共通しない部分も出てくる可能性があるので参考程度にしてください。
会場の音響でよくわからないことがあれば、その会場のPAさんに確認するのが良いです。
セット図の役割
「セット図は何のためにあるのか?」を掴むことで理想的なセット図が見えてきます。
早速答えを伝えると、「PA側がステージ上の設備やミキサー設定の下準備をしておくため」です。
出演者によって使う設備はそれぞれ異なります。
- バンドメンバーは何人でそれぞれの立ち位置はどうしたいのか
- ギタリストは何人いるのか、それぞれが使いたいアンプは何なのか
- ドラムは1タムなのか2タムなのか、スネアやペダルを持ち込むのか、ステージ通常位置から移動するか
- キーボーディストがいる場合、立奏なのか座奏なのか、出力はモノラルなのかステレオなのか
- ボーカルマイク(コーラスマイク)は何人分、どの位置に必要なのか
- イヤモニ(インイヤーモニタリングシステム)を使う人はいるのか、いるならステージのどの位置なのか
軽くざっと考えてみましたが、こういった下準備に必要なことはセット図の提出が無いと当日のリハーサルまでPA側はわかりません。
たまたま当日に似た編成の出演者がいる場合はセット図を出していなくてもあまり支障なかったりします。
必要な下準備が共通しているためです。
しかし、他の出演者と大きく異なる場合はセット図を出していなかった場合リハーサルが「下準備から」スタートします。
つまり限られたリハーサル時間の中で確認できる内容が減ってしまいます。
例えば
- ボーカルマイクを1本追加する必要がある場合
- 1分消費(マイク&スタンド設置+ケーブル接続+ミキサーチャンネル調整)
- ギターアンプを1台追加する、または変更する場合
- 2分消費(ギターアンプ移動+マイク&スタンド設置+ケーブル接続+ミキサーチャンネル調整)
- キーボードを1台追加し、ステレオ出力だった場合
- 2分消費(DI設置+ケーブル接続×2+ミキサーチャンネル用意)
大体ですが目安としてこれくらい消費します。
これらのことはセット図が事前に共有できていれば、PA側がリハーサル前の当日準備で済ませておくことができます。
するとリハーサルの時間を有効に使い、確認できることが増えます。
リハーサルで確認できることが増えるということは、本番でトラブルの心配が無い、安定したクオリティーのライブができることにつながります。
良いライブパフォーマンスのために、セット図は必要事項を漏れなく盛り込んで提出しましょう。
セット図を提出しておくとPA側が必要な音響の下準備を事前に済ませておいてくれる。
つまりリハ時間が有効に使える!
バンドの場合のセット図記入例
ここからが本題です。
必要な情報が盛り込まれたセット図の具体例を載せます。
最後まで読むのがめんどくさい場合は、ここの図を参考にすればそれなりに良いセット図が書けます。
詳しく知りたい人向けのポイントは後の項で説明します。
【メンバー構成】ギター&ボーカル、ギター、ベース&コーラス、ドラム
【横長長方形ステージ】のセット図例
横長長方形ステージでオーソドックスな編成と配置、シンプルな機材利用の場合を想定したセット図の例です。
注目すべきポイントは
- メンバー人数と担当パートが明確にわかる
- 利用するギターアンプ、ベースアンプが明確にわかる
- 誰にボーカルマイクが必要なのかわかる&どちらがボーカルでどちらがコーラスなのかもわかる
- モニタースピーカーを置いて欲しい位置もわかる
- 会場によってはモニタースピーカーが5個無かったりするので、希望通りになるかは別
- ドラムセットの構成、持ち込みキットが明確にわかる
です。
参考にして自分のバンド用のセット図を作成する場合は以上5点を確認してみてください。
【メンバー構成】ボーカル、ベース、キーボード、ドラム&コーラス
【二等辺三角形ステージ】&【持ち込み機材&レンタル機材多め】のセット図例
平たい二等辺三角形ステージでキーボーディストの居る編成、持ち込み機材を多数入れた場合の書き方です。
様々なケースに対応できるよう、1枚目の記入例と違う要素を多めに入れました。
1枚目でのポイントに加え、
- 持ち込み機材の機種が明確
- PA視点で機種が分からないと必要なケーブル選定ができないケースがあるため
- ボーカルマイクは指向性によって最適なモニタースピーカーの位置が変わるため
- 追加レンタル品(キーボード、シンバルスタンド)の確認が明確
- イヤモニ(インイヤーモニタリングシステム)やオーディオプレイヤー(iPhoneなど)によるオケなど、やや特殊な対応が必要な要素が明確
- PA視点でモニター出力の回線変更やDIの準備が必要なため
- キーボードは立奏/座奏どちらかが明確
- PA視点で椅子の用意が必要かがわかる
- キーボードやオーディオプレイヤーは出力のモノラル/ステレオどちらかが明確
以上がポイントになります。
応用して自分のバンドのセット図を書くときはこれらのポイントを確認してみてください。
必要事項が盛り込まれたセット図のポイント
ここからは補足説明です。
セット図に何を書いておくべきかを解説します。
ステージの形や図中の上手(かみて)下手(しもて)の方向
ステージの位置を決めるための用語。
客席側での「左右」とステージ・舞台側での「左右」は反対になってしまい誤解を招くので、その予防のために使われる。
定義は「客席側から見た左=ステージから見た右」が「下手」、反対側が「上手」。
筆者は「小中学校のステージでピアノが置かれる位置は下手」→「ピアニッ『シモ(下)』手」→「ピアノがよく置かれる方は下手」というしょうもない覚え方で覚えた。
意外かもしれませんが、ステージの形が想定されていない図や、上手(かみて)下手(しもて)がわからない図があります。
ライブハウスによってステージの形は変わります。
大抵の場合は「横長の長方形」ですが、「二等辺三角形」のステージや「ひし形」の形の場所もあります。
特に人数多めのバンド(5人以上)では想定してたステージの形が実際のステージの形と違うために、「機材配置やメンバーの立ち位置が実現できない」ということがあります。
ライブハウスのステージ形状は公式ページ掲載のフロア図や写真などで確認しておきましょう。
メンバー人数(出演者数)
これも意外と忘れられがちですが、「メンバーが何人かわかること」というのは重要です。
曲によって楽器の持ち替えがある場合では、楽器の設置位置だけ書いていると人数が誤解される可能性があります。
例えば「ベース担当者が一部の曲ではキーボードを弾く」場合では「ベース担当とキーボード担当が別に居る」という誤解が生じる可能性があります。
出演者の人数や立ち位置はモニタースピーカーの準備数や配置に関わります。
私のセット図例では丸の両脇に三角形が生えたような人型を使い、メンバーの人数と立ち位置を明確にしています。
利用する機材(ギターやベースのアンプの種類、ドラムのタム数など)
ギター、ベースのアンプについて
バンドでギターアンプやベースアンプを利用する場合は「利用するアンプの種類は何か」がわかるように書きます。
大抵のライブハウスにはギターアンプが複数あります。
目安ですが定番の「Roland JC-120」や「Marshall JCM900」など、3 ~ 5種類くらい選べます。
セット図に「Gt.Amp(ギターアンプ)」とだけ書いてあっても「どのギターアンプを使いたいのか」はわかりません。
その場合はリハ始まりのタイミングで確認することになりますが、たまたま「あまり使う人がいないから倉庫にしまってあるアンプ」だったりすると時間のロスが生じます。
ベースアンプの場合はギターアンプほど種類が用意されてないことが多いです。
定番のものも特になく、あえて言うなら「Ampeg SVT-3 PRO」や「HARTKE HA3500」のどちらかが置いてあるイメージです。
念のため、ギター同様に機種まで書いておくと安心です。
ドラムについて
ドラムはこの項目特に重要です。
- タムは1タムか2タムか
- 追加シンバルスタンドが必要か(標準セットではクラッシュL用、クラッシュR用、ライド用の3本)
- その他持ち込むキット(スネアやペダルなど)があるか
この3点がわかると良いです。
スネアやペダルが持ち込みの場合は標準セットのものを外して脇に置いておけば良いので、準備段階であまり支障はありません。
場合によってサウンドチェック時にPA側が「機材が変わっている」ことを知っていないと「マイクの異常」だと勘違いする恐れがあります。
タムの取り付け/取り外し、追加シンバルスタンドの必要はセット図に記載して事前に伝えていると準備時間を短縮できます。
(キーボード、リズムマシンなど電子楽器系)出力がモノラルかステレオか
キーボードやリズムマシンは出力をモノラルにしたいか、ステレオにしたいかを書いておきます。
モノラルは音声信号が1本で処理される状態のこと。例えばボーカルマイク1本による出力はモノラル。
モノラルの出力は聴感上1カ所から聞こえる。
ステレオは2本の音声信号が1組として処理される状態のこと。例えばモニタースピーカーペアの出力はステレオ。人間の耳からの入力はステレオ。(左右一対で1組)
ステレオの出力は物理的には2カ所からだが、音量バランスによるステレオイメージによって、いろんな方向から聞こえるようにできる。例えば大抵の曲のボーカルは「実際には音の発生していない左右のスピーカーの中間」から聞こえるようミックスで調整されている。
キーボードやリズムマシンはバンド上の音の役割によってモノラルが適切な時とステレオが適切な時が分かれます。
どちらにすべきか迷った場合、判断材料になるのは「定位(音の聞こえる場所)」です。
1カ所から鳴っていればいいという場合はモノラルでOKです。
リズムボックスで特殊な演出意図が無ければモノラルが良いです。
左右に広がりを持った音を使う場合はステレオの必要があります。
例えばキーボードでパッドをやる場合はステレオが良いです。
モノラルで使うか、ステレオで使うかによって用意するDIやミキサー設定が変わります。
セット図は何を使って書くのが良いか
セット図を書く際に「何を使って書くのが良いか?」を悩む人がいます。
基本的な選択肢としては「紙に手書きする」か「パソコンソフトで書く(描く)」の2択です。(会場によっては当日専用紙に手書きを求められることもあり、その場合は手書き1択です。)
場合によりけりですが、パソコンが少し使えるなら標準的な描画ソフト(WindowsならペイントやPowerPoint、MacならプレビューやKeynote)がおすすめです。
ちなみに既に上に載せたモデルセット図はMac標準ソフトの「Keynote」で作りました。
パソコンソフトで書くメリット・デメリット
- ライブ会場別に作る時などは既存のセット図を流用すれば作成が簡単
- 文字はフォント利用なので、字が下手でも関係ない
- データで保存できるのでかさばらず、いくつ作っても管理が簡単
- 初めて使うソフトだと操作に慣れるまで1時間くらいかかる
紙に手書きするメリット・デメリット
- どこでも書ける(パソコンがない場所でも書けるので融通が効きやすい)
- 1枚だけ書くならパソコンで書くより時間がかからない
- パソコンが苦手でも問題ない
- 字を書くときに気を遣う(綺麗な字である必要はないが、読めない場合や誤字があると正確に伝わらない)
- ライブ会場別に作る時などは0から書き直す必要が出る(ステージ形状が変わる場合など)
- 紙で保存するのでかさばってしまうし、シワにならないように注意が必要
個人的な印象では、バンド出演の場合はパソコンソフトで書いている方々が7割程度です。ソロでの弾き語りなどシンプルな編成と比べて書く量が多く、会場機材による変更点も多くなるので「初めの1枚を書くのは大変だけど、2枚目以降は楽できる」のが理由だと思います。
セット図作成サービス始めました!
「ココナラ」でセット図作成サービスを始めました!
音楽ライブのセット図を描きます 現役PAエンジニアが「伝わる」セット図を作成します- この記事を読んだけど、自分の演奏形態に近いものが見つからなかった人
- 失敗したくないのでその道のプロに描いて欲しい人
まとめ : 適切なセット図でリハ時間を有効活用!
今回は「セット図(ステージセット図)の書き方(描き方)」について解説しました。
要点をまとめると
セット図が適切に書けているとリハーサル時間が有効に使える
セット図には「盛り込んでおくべきポイント」がある(上下手の方向、メンバー人数、利用機種・機材名など)
書く方法は手書きでもパソコンでも良いが、パソコンがメリット多め
こんな感じでした!
必要な情報が揃っているセット図は出演者・PA双方にとってライブのやりやすさにつながります。
ぜひこの記事に書いたポイントを取り入れてみてください。
今回の記事は以上です!
お役に立てれば幸いです。
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