投稿曲がYoutubeのラウドネスノーマライゼーションをどれくらい受けているかチェックする簡単な方法

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対象読者・想定読者

  • 楽曲をYoutubeに投稿する人
  • 投稿曲のミックス、マスタリングをする人
  • Youtubeのラウドネスノーマライゼーションに関する知識を集めている人
  • ラウドネスノーマライズ「前」の音量を体感する方法を知りたい人
内容に関する注意

ラウドネスノーマライゼーションによるVolume低下レベルは記事執筆時のものです。
今後Youtubeの仕様が変わるなどしてVolume低下が軽減されたり、逆により強力になることも考えられます。

この記事を書いた人

奈沼 蓮

作編曲家、サウンドエンジニア(サウンドデザイン、ミキシング、マスタリング、ライブPA)

リミッターに突っ込みすぎた音はあまり好きじゃないのでラウドネスノーマライゼーションの流れは割と嬉しく思っている。同時に「作風」としてリミッターに突っ込んだサウンドが好きな人も尊重するスタンス。

そもそもラウドネスノーマライゼーションとは何か

端的に説明するなら「音声を一定の聴感上の大きさに揃える仕組み」です。

この言葉は「ラウドネス」と「ノーマライゼーション」に分けることができます。

ラウドネス(Loudness)というのは直訳すると「騒がしさ」のような意味の言葉です。
音響の用語では曲や番組の「聴感レベル」を指します。
聴感レベルを噛み砕いていうなら、「耳で聴いた時に感じる音の大きさ」ということになります。

なぜこんなまどろっこしい表現をするのかというと、人間の耳は音の波の大きさをそのまま感じるというわけではなく、

物理的な音の大きさは同じでも、瞬間的な音より持続音の方が音が大きく感じる
物理的な音の大きさは同じでも、1k ~ 2kHz付近の音は大きく感じ、低い音は小さく感じる

という特性があるからです。

話が専門的になりすぎるのでラウドネスについてこのブログでの説明は以上とします。
厳密な測定方法を含めて知りたいという方はEBU(欧州放送連合)が策定したラウドネスメータに対する技術資料を公開しておりますので、紹介しておきます。

EBU – TECH 3341Loudness Metering: ‘EBU MODE’ metering to supplement EBU R128 loudness normalization
https://tech.ebu.ch/docs/tech/tech3341.pdf

ノーマライゼーション(normalization)は「標準化、正常化、基準に合わせる」といった意味の言葉です。

上記を総合して平たく言えば、「音声の騒がしさを標準化する仕組み」という意味だとわかります。

ここまでのポイント!

ラウドネスノーマライゼーションとは「音(楽曲)のうるささ(聴感上の音量)を一定以下に揃える仕組み」

ラウドネスノーマライズの意義

Image by Tumisu from Pixabay

ではなぜそのようなものが必要とされ、導入されたのか。
それは「製作者がみんな制作物のラウドネスを高くしすぎちゃうから」です。
背景には「人は一般に(聴感上の)音が大きいもののほうが良い音と認識してしまいがち」ということにあります。
楽曲でもCMでも、他より音が大きい方が迫力があり派手で堂々として印象に残り良さげに聞こえる。
そのため楽曲制作も映像制作も他より目立とうとしてラウドネスをどんどん高めてしまったのです。

それでも良い音に聞こえるならいいのでは?と思います。
実は弊害があり、ラウドネスが高くなりすぎると楽曲の場合はダイナミクスレンジが狭まってしまうので、メリハリがなく、音が耳に貼り付くような仕上がりになります。
またYoutubeの動画やSpotifyの曲でそれぞれラウドネス値が大きく違うと曲が変わった途端音が大きくなったように感じたり、逆に小さく感じたりしてボリュームコントロールに気を使わなければいけなくなります。

以上のような目的から「ラウドネスノーマライゼーション」は存在します。

ここまでのポイント!

ラウドネスは高い方が「(一般の人達に)いい感じに聞こえやすい」ので制作側はラウドネスを上げていってしまった。
しかし「ダイナミクスレンジの低下」や「ストリーミングでのシャッフル再生下での音量変化の支障」からラウドネスノーマライズが導入されるようになった。

Youtubeの動画(楽曲)がどれだけラウドネスノーマライゼーションを受けているかチェックする方法

ここからが本題です。
内容的にはめっちゃ簡単です。

「詳細統計情報」を開く

動画ページに行って動画を右クリックするとメニューが出ます。
一番下に「詳細統計情報」というものがあるのでクリックします

動画を右クリックで出てくるメニュー
詳細統計情報を選択すると出てくる情報。Volume / Normalizedの項目が今回の焦点。

英語でずらっと項目が並びますが、このうちVolume / Normalized の項目が今回見るべきところです。
content loudnessというのが表示されている場合、Youtubeの基準となるラウドネス値からオーバーしており、ノーマライズのために音量を下げられています。
下げられた分の値がcontent loudness ~ dBの ~ の部分の値です。
上の画像の動画の場合はラウドネスが超過しているのでノーマライズにより2.3dB下げられています。

ちなみに基準のラウドネス値以下だと何も表示されません。

実際にいくつか具体例として見てみる

Ado 「うっせえわ」

content loudness 8.9 dB。
めっちゃラウドネスノーマライズで落とされてます。
(これは筆者の推測ですが、この曲はyoutube投稿に最適化されたマスタリングはされておらず、CDなどラウドネスノーマライズの影響を受けない媒体での視聴を想定して最適化されていると考えられます。)
Youtubeにアップロードする前は8.9 dB大きかったのですから、さぞかし「うっさかった」のでしょう。
ノーマライズ前の「うっささ」を体感したい人はPCのVolumeを約9 dB上げて聴いてみてください。
(多分ちょうどいいなと思う音量から6dB上げたあたりで、かなりしんどくなると思います。)

Guiano 「baby」

content loudness 1.0 dB。
オリジナルのミックスのダイナミクスがほとんど失われていません。
Guianoさんが所属する「KAMITSUBAKI STUDIO」は「Youtubeファースト」を掲げるレーベルです。
そのためYoutubeで聴くことを優先したミックス・マスタリングがなされていると考えられます。
ラウドネスノーマライズ対策の好例と言えます。

村人B 「海流」

content loudness 2.3dB。
手前味噌ですが、自分でも対策を行った上で投稿した曲があるので参考資料として載せます。
3.0 dBを超えるとオリジナルのダイナミクスが失われたことがわかるという意見を参考に調整しました。
テストを重ねた結果、Youtubeのアップロード前と比較しても聴感上違和感がほとんどないと自分で確認したので最終的にこのミックスで行くことにしました。

DAW上で自分の楽曲のラウドネスを測定するプラグイン

DAW上で楽曲のラウドネスを測定するにはメータリング・アナライザー系のプラグインが必要です。
私は「iZotope Insight2」を使っています。
ラウドネス測定は国や地域によって基準が色々ありますが、Insight2では主要な測定法を網羅しています。
表示もクールでみやすく、M1 Macシリーズ(Apple Silicon)でも問題なく動作します。

年に何回かセールがあります。2021年8月1日まではサマーセールで80%OFFになり、4300円くらいになりました。

まとめ 現代の音楽表現においてラウドネスは知っておきたいパラメーター

今回の記事では「Youtube投稿曲がどれだけラウドネスノーマライズの影響を受けているかチェックする方法」を紹介しました。

具体的には

  1. 対象の動画ページに行く
  2. 動画の上で右クリックし、「詳細統計情報」を開く
  3. content loudnessの数値を見る

というやり方でした。

Youtubeで音楽を聴くことが多くなった現代では、ラウドネスノーマライズによって
「ミックス・マスタリングしたときと聴こえ方が全然違う!これでは楽曲の印象に関わる!」
ということが起きる懸念があります。

そういったことを防ぐためにも、少なくともマスタリングの時点でラウドネスノーマライズの影響をできるだけ小さくする工夫は大きな意味を持ちます。
そもそもマスタリングには「媒体や再生環境を考慮してミックスされた楽曲を調整する」という役割があるので、現代のマスタリングには「Youtubeに合わせる」ということが求められてきているといって過言ではありません。

楽曲投稿者向けに「ラウドネスノーマライズ対策を踏まえたミックス・マスタリングの方法」なども今後記事にするかもしれません。

今回の記事は以上です。
お役に立てれば幸いです。

参考文献

今回の記事を制作するにあたり、情報の参考となった本を紹介します。

とーくばっく ~デジタル・スタジオの話~ David Shimamoto 著
https://pspunch.com/pd/talkback.html

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